標高の高い町に住んでいた時期がある。
最寄り駅から4kmと少し。
山道を歩いて登った先にあった天文台。

真昼に見えるのは赤い星だった。

帰り道に自称80歳の御婦人に声をかけられた。
シートベルト無しで山道を時速92kmで走るスズキの軽トラックに無理矢理乗せられた。
3時間以上かけて辿りついたのにバカみたいな速さで麓に着いた。

空に向けたレンズが写したのは青い星だった。

瀬戸内海を望む街に住んでいた時期がある。
暇ができると小さな自転車を積んでフェリーに乗って島へ向かった。

ベンチが見当たらないので岸壁に腰掛けた。
アルミホイルを解いて三角形にならなかったものを取り出して。

波の音も風の音もない。
大きく息を吸い込むと自分だけがいる世界に見えた。

見上げた空に映っていたのは青い星だった。

大川直也氏はとても目と手が大きな人物で、豪快に笑っていた。

カメラの歴史は誰もが失敗をせずに写真を撮るための進化を続けている。
当たり前のように誰もが美しい写真を残すことができる中で、写真家と自称する人間に一体何ができるのだろう。
私はアジェのようにあるがままを残すことだと思っていたのだが、どうも違うらしい。


2018年の秋、渋谷のルデコで並んだ写真を順に観ていくと、空に飛んだバナナの写真が目に止まりまった。
10年以上も前に同じようにコダックのフィルムを込めたカメラを担いで公園でニンジンを投げていたのを思い出して勝手な親近感を抱きながらも、あるがままを写すだけではなく記号を紛れ込ませている写真たちが並んでいた。

機械学習やAIで美しい風景や光景はいくらでも作れるようになっていくが、朽ちずに残っていく写真は確かにあるのだと改めて認識した。
多くの人が撮っているのではなく撮らされているのだが、無から有を生じさせることのできる才能を目にし写真家の未来は明るい。


謝辞に変えて


2020年4月27日  岩田 俊介

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